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経営・管理ビザ3,000万円要件を“国際マネーフロー”から読み解く|送金規制・AML・経済安全保障の視点

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目次

はじめに|なぜ今、資本金要件が「3,000万円」なのか

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2025年10月、法務省は経営・管理ビザの資本金要件を、
これまでの「500万円以上」から 「3,000万円以上」 に引き上げました。

この数字の変更は、単なる「金額の引き上げ」ではありません。
背景には、国際的な資金移動の透明化(マネーフロー管理)経済安全保障の強化 という大きな流れがあります。

以前の500万円基準は、比較的容易に形式だけの会社設立でも満たせてしまうため、
「ブローカー案件」や「名義会社」が増加し、制度の信頼性を損ねていました。
今回の改正は、こうしたリスクを抑えつつ、
資金の出所や経路、そして事業の継続性にまで目を向けた新しい仕組みへと進化しています。

さらにこの3,000万円という数字の背景には、
FATF(金融活動作業部会)による国際的なマネーロンダリング防止体制(AML)の整備や、
各国の送金制度・外為規制との整合性といったグローバルな政策的視点があります。

つまり、経営・管理ビザの改正は「国内の制度変更」ではなく、
国際的なマネーフローと安全保障の文脈で理解すべき動きだといえます。


第1章|日本の入管制度が“マネーフローの安全弁”に変化した

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経営・管理ビザは、出入国管理及び難民認定法第7条第1項第2号に基づく在留資格です。

これまでは「事業の実体」や「雇用状況」が中心的な審査ポイントでしたが、
近年では、「資金の透明性」や「送金経路の健全性」が重視されるようになっています。

背景には、FATFによる各国のAML/CFT(テロ資金対策)体制の審査強化があり、
日本も金融機関・税務・入管が連携しながら、
不透明な資金の流入を防ぐ体制づくりを進めています。

その結果、入管制度は単なる「在留資格の審査機関」から、
国際的マネーフローの“安全弁”の役割を担うようになりました。
今では、ビザ審査を通して「資金の出所」「送金経路」「経営の実体」が
三つの軸で確認されるようになってきています。


第2章|世界の出金規制と送金自由度マップ

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各国の「海外送金の自由度」や「資本移動の規制」は、経営・管理ビザを考えるうえで重要なポイントです。
同じ“外国投資”でも、その資金を海外に送る難易度は国によって大きく異なります。

地域外貨送金の規制日本への送金難易度補足
🇨🇳 中国年間等値5万USD上限(個人外汇管理弁法)+SAFE承認制🔥 非常に高香港経由送金は監視強化中
🇮🇳 インドLRS制度:年25万USD上限+RBI報告義務🟡 中送金目的の審査あり
🇻🇳 ベトナム国家銀行許可制(外貨持出制限)🔥 高国外送金は実質的に制約多い
🇵🇭 フィリピン外貨規制は緩いが銀行側の審査が厳格🟡 中AML対応強化中
🇸🇬 シンガポール完全自由送金(MAS Notice 757)🟢 低世界的な自由資金拠点
🇭🇰 香港自由送金だが中国本土経由は監視強化🟢 低中国系資金は審査増加中
🇯🇵 日本原則自由送金(外為法届出制)🟢 低AML報告・届出義務あり
🇺🇸 アメリカ自由送金・報告義務のみ(FinCEN)🟢 低1万USD超でCTR報告義務
🇪🇺 EU自由送金・AML重視(EU AML指令)🟢 低透明性と報告義務を両立

中国では、個人の外貨購入・送金が年間等値5万米ドルまでに制限されており、
これを超える海外送金は国家外汇管理局(SAFE)の承認が必要です。

つまり、経営・管理ビザの資本金である3,000万円(約20万USD)を海外から送るのは、
制度上きわめて難しいのが現実です。

また香港経由での送金も、近年は香港金融管理局(HKMA)の監視が強まり、
形式上は自由でも、実質的には審査対象となるケースがあります。

このように、日本が「資金の出所」や「送金経路」を慎重に確認する背景には、
送金元国の規制体制が審査の信頼性に直結するという現実があるのです。


第3章|中国・インド・ASEANからの資金流入に見られる課題

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アジア諸国では、資金流出を国家レベルで管理している国が多く、
「自由送金」が前提にならない地域構造があります。

🇨🇳 中国

中国では、個人外汇管理弁法により年間5万USDの上限が設定されています。
法人による送金でも、ODI(海外直接投資)制度の下で承認が必要です。
そのため、どちらのルートでも「日本での資本金3,000万円送金」は実務的に難しく、
香港やシンガポール経由の合法ルートを模索する動きが増えています。

ただし、香港経由の資金もSAFEとHKMAが情報共有を強化しており、
実質的には「中国資金」として扱われるケースも少なくありません。

🇮🇳 インド

インドでは、RBI(インド準備銀行)が定めるLRS制度により、
個人の海外送金は年間25万USDが上限です。
送金目的によっては銀行審査や報告義務があり、
「会社設立資金」として送る場合には特に慎重な審査が行われます。

🇻🇳 ベトナム・ASEAN

ベトナムでは国家銀行(SBV)の許可が必要で、国外送金は原則として制限されています。
フィリピンなども制度上は自由化されていますが、
実際には銀行レベルでの審査が厳しく、AML体制強化の流れが続いています。

このような構造の違いにより、日本側では「資金がどのように日本へ渡ったのか」、
そして「その過程が法令に適合しているか」という点が重要視されているのです。


第4章|日本の改正制度は「資金の質を選別するフィルター」

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今回の3,000万円要件は、単なる数字の問題ではありません。
それは、「資金の量」よりも「資金の質」を重視する転換点といえます。

3,000万円という設定は、

  • 個人レベルの見せ金や不正送金を防ぎ、
  • 正規の法人・投資ルートを活用する層を残す、
    というバランスを狙ったものと考えられます。

審査では、「出資者の透明性」「送金経路の立証」「事業の継続性」などが重視され、
国際的なAML基準とも連動しています。

つまり、経営・管理ビザの改正は、信頼性を可視化するための制度改革でもあるのです。


第5章|申請時に求められる「資金の説明可能性」

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経営・管理ビザの審査では、「合法送金」と「説明できる送金」は別です。

たとえ銀行を通じた正式な送金であっても、
その資金の出所や契約内容が明確でない場合、審査上は不利になることがあります。

主に次の点が確認されます:

  • SWIFT送金明細(送金人・送金目的が明示されているか)
  • 資金源(契約書・給与・納税証明など)の証拠性
  • 銀行の資本金払込証明書との整合性
  • 登記上の資本情報と一致しているか

最近では、司法書士・銀行・行政書士・税理士が協働して、
「資金経路の整合性」を確認する動きも強まっています。

つまり金額の大きさよりも、“説明できる資金”であることが何よりも重要です。


第6章|今後の方向性:信頼と透明性を軸にした新時代へ

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今後の審査では、「資金の多さ」ではなく
「説明の整合性」「透明性」「継続性」が評価の中心になります。

具体的には、

  • 送金元国の外貨管理制度を遵守していること
  • 資金の出所と経路を客観的に説明できること
  • 事業が持続的に運営される見込みがあること
    がポイントになります。

これは単に審査が厳しくなったというより、
“信頼型の経営者”を選ぶ時代に入ったといえるでしょう。


まとめ|制度は「排除」ではなく「信頼の可視化」

brian ceccato yJN LV7xpTI unsplash

今回の3,000万円要件は、外国人を排除するためではなく、
信頼できる経営者を適正に評価するための制度改善です。

外貨規制の厳しい国から資金を動かすのは容易ではありませんが、
求められているのは“抜け道”ではなく、正規で説明可能な資金ルートを示すことです。

経営・管理ビザは、これからの時代、
「金額」よりも「透明性と誠実さ」で評価される制度へと変わっていくはずです。

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